モータースポーツとお国自慢

ペドロ・デ・ラ・ロサ、HRTとレギュラー・ドライバー契約(F1通信)

今年40歳を迎えるペドロ・デ・ラ・ロサさんがヒスパニア・レーシングと2年契約を結びました。華麗なる復活記念として(?)2004年からF1を見始めて、ずっと考えてきたことを書き留めておきます。
デ・ラ・ロサさんはフォーミュラ・ニッポン初代チャンピオンですし、去年は可夢偉さんのチームメイトだったこともあって、暖かく愛されてはいるんですが、やはり引っかかりはあるので。


まず、F1でのお決まりのパターン。
中堅チームは“ベテランと若手”という組み合わせでのオーダーで(例:ウィリアムズのバリチェロとマルドナド、ルノークビサペトロフフォース・インディアスーティルとディ・レスタ)、ドンケツに近いチームは若手同士、あるいは持ち込める持参金如何によっては年齢もあまり関係なく(例:今年のヒスパニアリウッツィカーティケヤン)、とりあえずチームを回していくために必要な資金を優先してかき集めることができるようなドライバー選びを行なっていたはずです。


そこで、HRTがデ・ラ・ロサさんを選んだ理由。
まず、スペインチームにスペイン人ドライバーが乗る、という事自体、おそらく史上初。
今までのF1史のなかでスペイン人ドライバーなんて10人もいませんから、非常に珍しい事態であることは確か。
なぜかスペインってドイツやフランスよりモータースポーツが遅れてるよね、と言おうと思ったら今はフランス人F1ドライバーもいないしフランスGPもなくなったしルノーはイギリスチーム化したことを思い出したのでやるせない気持ちになりましたが。僅かな望みはフェラーリの隠し玉、ジュール・ビアンキ……。


もう40歳の大台に乗った、しかも新興国出身でもないデ・ラ・ロサさんが、同郷にアロンソのようなスターやアルグエルスアリのような若手がいるにもかかわらず潤沢な資金を持ち込めるとはあまり思えません。かと言って、このラインナップでオールスペインチームを謳ってスポンサーを集めることが可能かと言われたらそれも疑わしい。
ヒントになるのはフォース・インディアで、あそこはまだインド人ドライバーを走らせていない。インド人のカーティケヤンチャンドックは未だ持ち込みマネーを期待される下位チームドライバーでしかなく、中堅チームへとステップアップを終えていて、ドライバーも実力で選ぶフォース・インディアのお眼鏡にはかなわないようです。


では、HRTは純粋に実力(と、ギャラの安さくらいは加味してもいいかもしれないが)でドライバーを選ぶことは可能なのだろうか。
デ・ラ・ロサの経験は偉大だが、本当にそれだけが欲しくて契約する余裕はあったのだろうか。
そういった疑問が残っています。お金じゃないとしたら、彼は手土産に何を持って行ったんでしょうね。


F1は最初は企業ではなく、国別対抗戦として始まったことはファンにはご周知の通り。
マシンカラーが国ごとにレギュレーションで決まっていた時代もあったんですが、そこにスポンサーと広告の仕組みが持ち込まれます。

「1968年、かのチーム・ロータスが、シンボルカラーであるブリティッシュ・グリーンを捨てて、赤と白のゴールドリーフ・タバコのカラーを身にまとったことが、F1広告時代の幕開けでした。」

blog.formula.commons - F1はやっぱり「走る広告塔」である (1) ― F1スポンサーの移り変わりは時代を映す?

その後、「国別対抗戦」という役割は[www.raceofchampions.com:title=レース・オブ・チャンピオンズ]やA1グランプリ2010年に経営破綻して消滅してたww)、最近はなぜかスーパーリーグ・フォーミュラがその役割を担い始めたりしてよく分からない状況です。


あと関係ないけど、[www.gp2series.com/:title=GP2]以外のミドルフォーミュラって混乱してますよね。
F2は復活するわ、[www.gp3series.com/:title=GP3]はそこそこ流行ってるみたいだけどF3は没落しまくるわ(日本とて例外ではない!)、フォーミュラ・ニッポンは急激にドライバーの入れ替えが進み、前述のとおりA1GPは消滅。フォーミュラ・ルノー3.5はともかくAuto GPなんてものも出来たけどこれも人気あるの? なんていろいろ思っちゃったり。さらにスーパーリーグ・フォーミュラね。


話を戻しましょう。
2004年からF1を見始めてきて、ここ2年くらいで、急激にF1界にも「ナショナリズム」的なものが復活し始めているように思うのです。
不景気ゆえにスポンサーが集まらず、「お国柄」を売りにすることで自国スポンサーを集めようとしていることは目に見えてわかるんですが……。
あ、そういう「国」という括りで金や人や開催地の動きを見ているのが個人的にも好きなので、「自動車レースと世界経済」というタイトルで、自分のゼミのブログにも寄稿していますw


2006年に発足し2年後に消滅したオールジャパンチームのスーパーアグリなんかは、今から見ればその前兆でしたよね。日本国内の小口スポンサーなんかをたくさん集めてました。
BARホンダ⇒ホンダF1も日本のパーツメーカーなどががっちりサポート、トヨタデンソーなんかのグループ企業や、パナソニックKDDIのような日本の技術投入が行われていました。お金の面でもそうでしょうね。いわゆる「ジャパンマネー」がそこに集まっていた。
その図式自体は特に珍しいものではなかったんですが。

事実上2004年末に消滅したジョーダン・グランプリの話をしましょう。
2005年、ロシアのミッドランド・グループに引き渡され、翌年はロシアチーム「MF1」として参戦。しかし2006年シーズン途中からはオランダのスパイカー社に転売され、2007年はスパイカーF1チームとして参戦し、シーズン中にインドの航空会社キングフィッシャーのボス、ビジェイ・マルヤに売り渡されてそこで財政的安定を得ます。
つまり、アイルランドの血が流れていたはずのチームが、ロシア、オランダを経て、インドに安住の地を得たということです。
ロシアでもオランダでも、その国のスポンサーが一応ついてはいました。というかスパイカーの時はオランダ政府の力添えもあったような……? 証拠が見つからない。


その2005年から2007年までのドライバーも非常に面白いです。
オランダのバックアップがあったクリスチャン・アルバースポルトガル政府系企業の資金を持ち込むことの出来たティアゴ・モンテイロ、インドの大企業TATAをスポンサーとし、後のインドマネー流入への足がかりを作ることになったナレイン・カーティケヤンなどなど。
ドライバーからの資金持ち込みは別におかしくないのです。
たとえばルノーの(本来のラインナップである)クビサからは東欧、ペトロフからはロシアンマネーが期待できますし、ザウバーセルジオ・ペレスエステバン・グティエレスはふたりともメキシコ人ですから、そちらがターゲットであることは明白です。ケチな日本の可夢偉さんが肩身が狭くないか心配です。
主にBRICs(今年、South Africa=南アフリカが加わって「BRICS」となったらしい)などの新興国、あるいはアブダビのように「ガンガンカネ使っていける」国が現在のモータースポーツを支えていることは確かで、そういったマネーが流入してくることはモータースポーツ界にとっていいことだと思うのですが(ただしそういった国でのレース開催は治安だのサーキット建設だのと問題は多いw)。


自分が気持ち悪さを感じるのはそこではなく、突如としてマクラーレンがイギリスドライバーでラインナップを固めたり、ホンダ⇒ブラウンGPからワークス化したメルセデスGPニコ・ロズベルグミハエル・シューマッハを起用してドイツ色を押したり、フェラーリがイタリア系ブラジル人のマッサとスペイン人のアロンソでラテン文化圏を形成していたり(これは偶然だと思う)、上位チームが今さら「ナショナリズム」的なものを急に大事にし始めたことに、違和感があるのです。
何がしたいんだろうか。あるいはこうしないと大手チームでもスポンサーが集まらないのか。それとも「新しい」(実際はリバイバル)スポンサー集めの手法としての「国推し」なのか。それが自分にとって疑問なんですよね。



最後にサッカーの話。
サッカーで(少なくともEU内において)外国人枠を取っ払ったイングランドスコットランド、スペイン、イタリア、ポルトガル。相変わらず厳しいフランス。そんなルール最初からないオランダ。外国人枠3人に加えて、アジア人枠1人を追加した日本のJリーグ。外国人枠の撤廃は、国によっては自国選手が育たないという問題になってしまっているところもありますし、外国人がどんなにいてもいい選手が出てきている国もあるので、一概に良い悪いを論じることはできません。
しかし、今年の8月に発表されたIFFHS(国際サッカー統計連盟)のクラブチームランキングから、何を読み取りますか。


結局、スポーツの目的ってスポンサーマネーを得ることなのか、チームを強くして勝つことなのか、それともそのどちらかが手段でどちらかが目的なのか。
考えさせられる問題だと思います。スポーツとお国柄のお話。