ミハエルは戦場へ行った

あの皇帝が帰って来るぞ!

先に宣言しておきますが今回F1の話しかありません。専門じゃない方は読んでも仕方なさそうです。

ブラウンGP改めメルセデスGPペトロナスから、7度のワールドチャンピオン、ミハエル・シューマッハが3年ぶりにカムバックが決まりました!
ドイツチームで同じドイツ人のニコ・ロズベルグとコンビを組むことになり、オールブリテンを目指すマクラーレンと流れは異にしていますが傍から見てれば同じようなもんで、両チーム共々ナショナリズム持ち込みが始まっています。どうなるんだろう。


近年はオランダやポルトガルやマレーシアやロシアなど、公的資金を投入してスポンサーをやる国家や地方自治体(市町村じゃなくて州な)も増えてきているので、或いはそういう狙いがあるのかもしれません。新しい資金調達の形として、大企業ではなく公的組織を使うのではないかと。そうでなくても、1ヶ国から大量のスポンサーを釣り上げて来られるっていうメリットはありますよね。
そう思うと、わずか2年の差とはいえ、スーパーアグリは時代をやや先取りし過ぎたのかと思えてなりません。もちろん、詐欺に遭ったりしたっていうのが直接的な原因だけれども、もし当時に今みたいなナショナリズムが盛んだったら日本企業が救済してくれたと思うし、最初からSS United(実体のない「石油企業(笑)」だった)なんかと手を組まなかったしな。


話が逸れました。ミハエル・シューマッハに関しては説明も要らないでしょう。通算249戦91勝、ポールポジション68回にファステストラップ77回、通算ポイント1369点でワールドチャンピオン7回。出走数以外は全て最多記録です。
Take Fiveが始まる寸前に引退してしまったので――嗚呼、今思い出してもあのブラジルはすごかった!あれが去り行く者の戦いか!?――、俺が高校生の間に丸々年金生活を送っていたことになります。
しかし!時たまテストをしては現役ドライバーにまったく引けを取らないタイムを叩き出すことは多々ありましたし、セバスチャン・ベッテルと組んだレースオブチャンピオンズのドイツチームでも圧倒的な強さを見せつけたので、正直に言えばまったく衰えはないでしょう。近頃は猛烈なトレーニングを再開したという話も聞きましたし、体力云々はまさに“ターミネーター”に相応しいんですが、おそらく今のミハエルが誰にも負けないのはそのセンスと経験かと。
疑う余地のない最強チーム・フェラーリと、現役最強ドライバーのひとりフェルナンド・アロンソを堂々敵に回して戦うことになります。まさに2006年の再現になりそうですね。メルセデスのマシン開発が順調ならば始めからチャンピオン候補でしょうし。
ちょうど入れ替わるようにF1の世界にやってきたセバスチャン・ベッテルルイス・ハミルトンも、とうとうF1というフィールドで刃を交えることになります。天才と言われる若手ドライバー達は、果たしてミハエルにかなうのでしょうか。
開幕戦は例によって来年3月のオーストラリアですが、俺はミハエルが勝ったって決してサプライズではないと思う。オーストラリアでの勝利は2004年までさかのぼることになりますが……マシン次第とはいえ、今年のブラウンGPのリプレイだってありえます。春が楽しみになってきた。
俺がF1を見始めた数年間は、ちくしょうまたシューマッハかよ、と思うこともありました。しかし、その盤石の黄金時代に終止符が打たれた2005年は本当に驚きましたし、ラストイヤーの2006年に、近代F1で、マールボロボーダフォンのスポンサーのためにもっとも色合いが調和が取れていてもっとも美しく(2007年はボーダフォンマクラーレンに移ったのだ)、そして最後のシングルキールマシンでもある248F1を駆ってルノーアロンソとの戦いに挑むようになった頃は、既に俺はミハエルの味方になっていました。モンツァでの引退発表の時は、その時がついに来たかと思ったけれど、まさかこんな形で帰ってくるとも思っていませんでした。もちろん半名誉職としてフェラーリにスーパーバイザーの肩書きをもらい、時折パドックに現れてチームを見守っていたんですが……来たら勝てないなんて言われてたね。

意外なところですが、2006年頃の茅原実里のブログにはけっこう事細かに当時のF1についての記述がある(ラストは2006年10月23日の『引退』)ので、ひょっとしたらまたこちらでも何かコメントがあるかもしれません。当時わりとミハエル寄りの発言が多かったですからね。


Toca's roomにも1ヶ月半ぶりにコメントが発表されました。やたらメールが帰って来ないと思ったらやはり執筆中だったのか。互いに自分の記事を書き上げてから読むと約束したのでまだ読んでいませんが、総じて俺よりクールでオブジェクティブな意見が述べられているので違った楽しみ方が出来ます。俺が感情的すぎることも否定出来ませんが、トヨタ撤退の時は俺とあまりに温度差があったから正直に言えば冷酷だと思ってしまったことを告白します。しかしながら今回はどうなるのやら。


かつてのミハエルはメルセデスのいわゆる教育実習生だったんです。少なくとも1991年のベルギーGPで(逮捕された)ベルトラン・ガショーに代わりジョーダンからデビューするまでは。
しかし翌戦から今は追放されたフラビオ・ブリアトーレに引き抜かれてベネトンルノーへ拉致され5年近く戦いチャンピオン2回、1996年にフェラーリ再建に乗り出した後は10年以上の長きに渡ってフェラーリの象徴であり続けました。要するにメルセデスとの関係はうやむやに。
だから意外にもジョーダンを除けば彼の所属はずっとイタリアだったんですが……今回またメルセデスに出戻りということで。メルセデスのノルベルト・ハウグさんのコメントの結びが「ダイムラー・ベンツの全員は19年前の“見習い”を暖かく歓迎する。今やこの見習いはもっとも成功したレーシングドライバーである」という非常にジョークの効いた暖かなコメントだったので、余計に期待が高まってしまいます。

いやあ今はミハエルについてしか書けることがないですね。俺自身は何やってもダメな1日だったし。
リーマン・ショック以降、トヨタ、ホンダ、BMWブリヂストンの撤退が決まり、F1界にずっと暗雲が立ち込めていたところでした。メーカーは3社しか残らないし、また古き良き時代のプライベーター主導に戻っていきブランドイメージが落ちやしないかとも思っていたんです。でもミハエルが帰ってくるというだけで、きっとF1界全体にとってものすごい利益をもたらすことになると思います。

だからこそ俺は、全てが終わった遠い未来のはずの春を、ウズウズしながら今か今かと待たずにはいられないのです。